革命的悪文日記

ネコに飼われている学生が悪文で色々書いています

孫子の兵法③

 レポートを放置して今回も引き続き孫子の兵法です。

goryatokin.hatenablog.com

goryatokin.hatenablog.com

 今回は要約→解説という流れで書いていこうと思います。気が向いたらそのうちフォーマットも統一します。

 


前回のまとめ

第一 計篇
 戦いを始める前に条件や準備を整え、始めるかどうか熟慮せねばならない。そのために五事七計を用いて判断するのがよい。

第二 作戦篇
 戦いを起こすにあたって、軍隊を編成して派兵するまでに必要な軍費と国家経済について。短期決戦の重視。

第三 謀攻篇
 計謀による攻略。実際の戦闘によらずして勝つことが望ましい。

 計篇、作戦篇、謀攻篇の三篇が戦争前に勝つ(戦わない)ための下準備、国が行う戦略レベルの解説とするならば、それに続く形篇、勢篇、虚実篇は戦術レベルでの解説である。戦略や戦術といった用語をはじめとして、基本的に軍事技術というものはそれぞれの国で発展させることが多く、用語統一が進めにくい性質が否めない。そのため、翻訳された言葉でも用法やニュアンスに差異が生じている。例えば先ほどの戦略・戦術を陸上自衛隊の定義では、
戦略:戦術の上位にある概念。作戦を計画し、準備し、指導する学術。戦術の適応に指針を与えるものとする。
戦術:戦闘及び部隊移動など並びに治安維持の行動などを計画し、指導する学術。
作戦:諸職種連合部隊が、対直接侵略及び対間接侵略において与えられた任務を遂行するための数正面または一正面における一連の行動をいい、数次の戦闘を主体として行われる。
戦闘:作戦の個々の場面において、戦闘力を行使する行為及び状態。
 とされているが、米陸軍では
戦略レベル[strategic level]:国家政策・戦域戦略
作戦レベル[operational level]:会戦[campaigns]・大規模作戦
戦術レベル[tactical level]:戦闘[battles]・交戦[engagements]・小部隊の行動[small-unit and crew actions]
交戦[engagements]は敵対する下級部隊間の戦術レベルでの戦闘[conflicts]。旅団およびそれ以下の部隊が対象で、数日・数時間・数分という短時間で終わる。
戦闘[battles]は複数の交戦からなり、部隊規模も師団以上で戦闘期間も長くなる。
となり、陸上自衛隊とは戦術と作戦の位置や、それぞれ用語に内包される内容が異なっている。今回は米陸軍の定義を踏襲し、戦略(作戦)レベルと戦術(交戦・戦闘)レベルという形で区分する。イメージとしては、決戦場に赴くまでが戦略レベル、敵部隊との戦闘が戦術レベルといったものとする。

 

第四 形篇

 この章では計篇から謀攻篇まで分析した内容をベースに、戦場で展開する軍隊の形(態勢(=陣形))について言及されている。

要約

 まず味方は負けない備えをすることが求められている。なぜなら絶対に勝てる態勢というのは相手ありきのことであって、こちらからどうこうできるものではないからである。戦力に不足があるときはまず守勢に徹し、余裕があるときに攻勢に出るものだ。勝利する軍は勝利を得てから開戦するが、敗北する軍は開戦してから勝利を求める。将軍は(一般人には感じ取れない)敵の態勢の機微を察知し、勝ちやすい時に攻勢に転じる役割を持つ。そして軍隊は号令に即応できるように訓練を重ねておく必要がある。そのためにも第一 計篇でも述べられていたように、人々の心を統一させる政治体制と軍制が大切なのである。将軍は度・量・数・称・勝を測る。勝つ将軍はこれら5つの原則を熟慮し、十分な勝算を持った状態で開戦するため優勢となる。戦闘の時には滝のような勢いで攻め、その勢いを作るのが態勢である。

 孫子はこちら側の守りを固めることの重要性を説いている。これは冒頭から続く戦争に対する孫子の否定的な態度であり、勝つのも重要であるが、まずは負けない(被害を抑える)ことを重視しているためであると考えられる。
 戦略や作戦レベルでは五事七計が用いられるが、戦術レベルでは上記の度・量・数・称・勝が用いられる。これらを測ることが将軍に求められている能力
 将軍は敵の態勢の機微を感じ取るために5つの原則
…戦場について広さや距離などをはかる
…度に基づいて投入するべき物量を考える
…量に基づいて動員するべき兵数を考える
…数に基づいて敵味方の能力を考える
…称に基づいて勝敗を考える
 5つの原則でも敵に対して攻勢に出るための考え方ではなく、戦う前に勝敗は決定しているから無駄な争いはしないという考えと現状分析が徹底されている。

 

第五 勢篇

 戦いとは第四で言及された形に加えて、軍全体の勢いによって勝利を勝ち得ると考えられており、この章では勢いの重要性と勢いの作り方について述べられている。

要約

 大軍を指揮していても少人数のように整然と動かすためには、編成をきっちりさせ、尚且つ旗や鳴り物などの指令設備が整えられている必要がある。こちらの大軍が負けないようにするには、敵の出方に対応して、定石と奇法の使い分けがうまくある必要がある。2つの法を適切に使い分ける将軍は十分の兵力で隙のある敵を叩くことができる。おおよその戦いは整えられた軍と整えられた軍の衝突という定石通り(負けないように備えている)に始まり、状況の変化に対応(奇法を用いる)したものが勝利し、勝利する軍の動きのバリエーションは尽きることがない。水が岩を動かすほどに激しくあるのが勢い、鳥のくちばしが獲物を砕くように一撃を与えるのが節である。戦いに巧みな将軍は、勢いを強くし、節を切迫させて敵軍を破る。つまり、最も優れた将軍は極限まで軍の勢いを強めて、一点に向けて一気に勢いを解放することができ、負けない。だからこそ、優れた将軍は兵士の質に頼らず、編成や勢いを重視する。

 戦いはお互いに戦うという意志をもって、決戦場において戦闘が開始するという性質上、お互いがなるべく勝てる(負けない)状態で戦闘が開始される。これが定石通りの戦闘である。例えば、A軍がB軍の分断を図ろうと中央突破を敢行した場合に、細長くなった陣形のA軍を囲むように2つに分かれるというのが状況の変化に対応した奇法と呼べる動きである(本当はもっと複雑なものを指すだろうが…)。

この章でも孫子は将軍が類意するべき三つの事項を述べている。
分数…部隊の編制 →統率が取れるかどうかを左右する
勢 …戦いの勢い →臆病になるか勇敢になるかを左右する
形 …軍の態勢  →弱くなるか強くなるかを左右する
 これらに類意することで統率の取れた勇敢で強い軍隊が作れるとした。このような陣形や勢いなどの数値化数量化できない戦力を旧日本軍は無形戦闘力と呼んでいた。対して兵士の数や戦車、大砲などの数値化できるものは有形戦闘力と呼んでいた。当時、春秋戦国時代でも近接用の刀剣のほかに、クロスボウや戦車(チャリオッツ)、投石機や弓矢などがあったようだが、それぞれの武器については(作戦篇を除き)言及されておらず、無形戦闘力を重視していたのだと考えられる(第二 作戦篇ではロジスティクス的側面からの言及はあった)。しかし、戦争準備という面から指令設備の準備は怠らないようにしている。

 勢いと節で述べられている一点に向けて一気に攻勢を仕掛ける陣形について、米軍は『集中の原則』として扱い、ジョミニは基本原則として扱い、どちらも共通して敵の致命的脆弱性を持つ決勝点に最大多数の兵力を統合して投入するべきであるとしている。要するにこちらの10をもって敵の1(弱点)にあたる戦術であり、様々な兵学者たちがこの原理を唱え、実際の戦闘でもこの原則を用いた軍の大多数は勝利している。

 

第六 虚実篇

要約

 実によって虚を討つべきである。これは敵より優勢に戦いを進めるための基本方針である。戦いに巧みな人は戦いの主導権を握り、相手を翻弄して思い通りの行動をさせない。有利な時には相手を誘い、不利な時には敵が来られないように見せかける。主導権を握ることで有利に戦いを進めることができる。そのためにも冷静に分析することが重要。こちらが隠れて戦おうとする場所がわからなければ、相手は多くの場所を防御するために兵力の分散を強いられる。これによりこちらは大勢で小勢の敵を攻撃することができる。小勢になるのは相手が主導権を失って備える立場であるから、大勢になれるのは主導権を握って相手をこちらのために備えをさせる立場だからである。主導権を握るためにも決戦の時期、場所が判明し次第、急いで向かうべきである。戦いの前に敵の虚実を知るためには敵の情報を目算し、敵を刺激して行動基準を知り、はっきりとした態勢を把握した上で有利な地形、不利な地形を知り、小競り合いをして優勢なところと手薄なところを知る。敵に味方の虚実を悟られないために、軍の形は水のように無形になることが必要。無形であればスパイにも悟られることなく、敵将もこちらの出方を判断することもできない。敵に合わせた変化をして勝利することができる。

 まずここでいう虚実とは、
…備えがなく、隙がある状態
…充実した準備を整えている状態
 という状態を表す言葉である。実の軍(準備を整えた軍)が敵(備えがない軍)を討つべきであると孫子は主張している。常識的に考えても強固に備えている敵の正面から衝突したとしても効果は薄いだろう。備えがない箇所、それも敵軍の活動を停止させるような重心(=すべての力と活動の中心 by クラウゼヴィッツ)を効率的に攻撃することで、自軍の損耗も最小限で済む。そのためにも主導権を握る必要性と方法とがこの篇ではまとめられている。戦いの主導権を握る必要は米軍も『主導の原則』として用いており、相手に我が意志を強要するために、相手に先んじて指針を立て、必要な情報を獲得し、準備を周到に整え、要点(攻撃・防御目標)に対して優勢な戦闘力を集中させることを是としている。この原則でも敵の情報を集めることを重視している。孫子は得るべき情報を『得失の計』『動静の理』『死生の地』『有余不足の処』とまとめ、敵の数、動作基準、有利不利な地形、手薄な箇所を把握することが大切であるとしている。

 孫子は主導権の重要性を述べたあと、軍隊は水のように無形であるべきとし、敵情に合わせた変化をして勝利を決するべきであるとした。「敵に合わせる」という言葉から、主導権を奪われている状態のように考えられてしまうが、孫子はあくまで虚実の如何が主導権に関わると考えており、敵が攻めようとしてきたとしても実によって迎え撃つことができれば主導権は失っていないこととなる。

 

 

 今日はここまでにして寝ます。明日からレポートやります(宣言)。読み返して思うことがあれば書き足していきます。あ~そろそろ卒論も始めないと間に合わない気がしてきた~~

 

新訂 孫子 (岩波文庫)

新訂 孫子 (岩波文庫)

 
戦術学入門―戦術を理解するためのメモランダム (光人社NF文庫)

戦術学入門―戦術を理解するためのメモランダム (光人社NF文庫)

 
戦術と指揮―命令の与え方・集団の動かし方 (PHP文庫)

戦術と指揮―命令の与え方・集団の動かし方 (PHP文庫)

 
戦争概論 (中公文庫―BIBLIO20世紀)

戦争概論 (中公文庫―BIBLIO20世紀)

 
戦争論〈上〉 (中公文庫)

戦争論〈上〉 (中公文庫)

 
戦争論〈下〉 (中公文庫―BIBLIO20世紀)

戦争論〈下〉 (中公文庫―BIBLIO20世紀)